医療4.0×医師ラボコラボイベント、沖山先生回 後編です。幼少期〜高校で自己コントロール、メタ認知を身につけ、大学、救急医〜離島医を経て、「医療の解釈はひとつでないこと」を知った沖山先生が気がついた、「自分のやりたいこと」とはー?
前編を未読の方はこちら
<メドレー時代>
沖山先生の「医療」は、離島から企業に身を移します。
メドレーは、「医療介護分野における正しい情報の提供や、人手不足の解決に向けたサービスの提供を通じて、患者さんやそのご家族、そして医療従事者にとって納得できる医療を目指している」企業です。
ここで沖山先生は、医療情報の非対称性解消に取り組みます。これは沖山先生にとって、病院外で社会と触れる初めての経験でした。
また、メドレーでは、事業運営のイロハを学びます。
さらに、メドレーで学んだ一番大切なことは、「スタートアップで働くということは、理念に共感する人を、社会に増やしていくこと」。
ユーザーを増やす
社員を増やす
このどちらも、つまりは企業の理念への共感者を増やすということなのです。
<フリー>
企業を概念から学んだ沖山先生は、1年間フリーな生活をし、47都道府県、100病院で働き、「医学だけではない医療」を探しました。
やはり場所や施設によって、全然違う医療。でも、そのどれもが「医療」でした。そして見た目が違う医療も目指す先は一つで、患者の「幸福」を目的としない医療は成立しないという、真理に辿りつきました。
さらに、テクノロジーは入れ替わっても背景は常に同じで、「数学」であることも見出しました。
テクノロジーは、どれほど革新的なものも、時が経てば当たり前になっていきます。インフラになっていきます。次のテクノロジーは、AIです。でも、これも当たり前になっていきます。医療を変える、社会を変えるツールは変わっていきます。だから、一つのものにしがみつくことはできません。
しかし、全部のテクノロジーを理解することも、できません。そこで沖山先生は、「テクノロジーの背景」に目をつけました。数学の探求です。あらゆるテクノロジーの背景に数学があります。
沖山先生は、数学の本を読み漁りました。
原理を知り、限界と可能性を探るために。
⒉ 現在−アイリス、そして⒊ 未来−医療4.0時代
様々な経験を経て沖山先生は、「自分の目指す医療」の実現のため、アイリスという会社を起業されました。

具体的な取り組みについては、こちらhttps://aillis.jpをご覧下さい。
イベントではアイリスのミッションである「医師の暗黙知を共有する」ということはどういうことか、語っていただきました。
ストック性とサイクル性

まず、ストック性とサイクル性について。
ストック:引き継がれ、累積するもの(文字・意味記憶、形式知・情報)と、
サイクル:次世代へ、引き継がれないもの(身体知・体験記憶、暗黙知・ノウハウ)
この2つの差は、なにか?

ピタゴラスは、間違いなく古代の天才です。
しかし、数学の知はストック性で、古代の天才たちが積み上げた知の土台からスタートできる、例えば現代の凡人であるとある大学生の数学の能力は、ピタゴラスに勝ります。これは、スタート地点が違うからです。0を発明した人は天才ですが、私たちは小学生から0を知っています。数学は、過去に学び、過去を習得することができるのです。
対して運動能力は、サイクル性です。オリンピアンという古代の天才を、現代の凡人である大学生は、超えることができません。スタート地点は、個だからです。私たちはオリンピアの足の速さや力の強さを、自分のものとして身につけることができないのです。
では医学の場合のストックとサイクルは、なにか?

医学における、ストックは、医学情報。私たちは過去の膨大な研究から進化した医学を、大学1年生から学ぶことができます。常に医学情報は新しくなっていくので、昭和の名医よりも、平成の研修医のほうが、進化した医学情報を扱うことができます。対してサイクルは、匠の技。一人の名医の技術、例えば手術の能力や、ずば抜けた診察能力は、平成の研修医は、身につけることができません。0から個として、修練を積まなければならないのです。
このサイクルとストックの構造の違いを、「単位」からみてみます。

ストックは、全人類の共創、サイクルは、個人の研鑽によります。
だからサイクルのスタートは毎回、0からになってしまう。
これって、もったいないですよね。匠の技をストックできれば、医療は別のルートで進化するとも考えられます。
しかし実は、昔は「情報」すら、サイクルだったのです。

サイクルだった情報は、文字の発明によって、ストックすることが可能になった。
「記録と更新」が可能になったのです。
これを、匠の技に応用するとどうなるか?

サイクルである、匠の技を、深層学習によって、記録と更新を可能にします。
例えばどういうことか?
バッハの作曲術、レンブラントの筆運び、名人の打ち筋、J.K.ローリングの文体。これらはどれも、個人の研鑽によるもの。別の人間が、それを習得することはできません。

しかし深層学習によって、これらが可能になった。
AIは、バッハの作曲術、レンブラントの筆運び、名人の打ち筋、J.K.ローリングの文体を習得することができるのです。AIはバッハのような曲を新しく作り、レンブラントの筆運びで新たな絵を描くことができるのです。個体が死んでも、技術を蓄積し、それを用いて新たなものを作る、更新することができるのです。
これは、革新的なことです。

振り返って、情報や知識がサイクルからストックになるための発明は、文字だった。これを外部化手段とします。外に持ち出すための方法です。
これを、拡張させるための手段、スケール手段は、例えば活版印刷。多くの人に届けるための方法です。
今、私たちは、表の2段目の、身体知・暗黙知を、サイクルからストックにするフェーズに来ています。外部化手段は、ニューラルネットワークです。バッハの作曲能力を、外に持ち出すための手段です。そして、これを拡張させるための手段は、インターネットです。

深層学習によって、今までは個人の知だったものを、人類の資産として残すことができるようになっていきます。そして、それは、未来の誰かが更新、発展させてくれるのです。素晴らしいことではないでしょうか。
もはや、私自身、個人として生きている気がしなくなってきます。自分が人類という生き物の細胞の一つになったような気すらしてきます。それは勿論、個がなくなるという意味ではありません。しかし、より、一体感を感じます。人類の一部として、一層私たちは肉体の死を超えて未来に生きていきます。
これからの未来

これからの未来において、私たちはAIと組むことで、過去を超えることができます。進化する手段が増えたのです。
これは、明らかなパラダイムシフトです。
そして大切なのは、これを誰が、如何に、人類に役立てるのかということ。
そう、アイリスのミッションは、「医療の暗黙知を共有する」ことです。
これが、沖山先生の「医療」です。
医療の暗黙知・匠の技を共有化し、人類全体で創り、更新し続ける。
医療は、アイリスによって、進化します。
沖山先生の探し描いた「医療」が、未来の人類も含めた、沢山の人を救っていく。
そんな眩しい未来を感じさせる、素晴らしい講演でした。
質問タイムでは、「人類史におけるニューラルネットワークの意義」のスライドの、三段目は何か?という質問が出ました。熱い議論が交わされた最高の時間となりました。
皆さんは、どう考えますか?
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