“やりたいことを全力で楽しむ”原正彦先生⑤ / 医療4.0×医師ラボ

医療4.0に登場する未来を描く30人の医師のルーツと半生、その生き方に迫る”医療4.0×医師ラボ“企画。第7回目は原正彦先生にその半生を語っていただきました。今回は世界を魅了する原先生の臨床研究について最終話でお届けします。

第1話”自由と独学で突き進んだ学生時代”

第2話”好きなことを仕事にする掛け算の法則”

第3話”不安を克服し、ワークライフインテグレーションの時代へ”

第4話”世界を魅了する臨床研究”

(この記事は9/22に行われた医師ラボ朝活vol.7の内容の一部を記事にしたものです)

一般社会法人日本臨床研究学会代表理事、株式会社mediVR代表取締役社長、循環器内科医

2005年島根大学医学部卒。米国心臓病学会から世界の若手トップ5に3度選出された知識と経験を生かし、臨床研究から産学連携まで幅広く活躍。代表を務める株式会社mediVRは、経済産業省主催のジャパンヘルスケアビジネスコンテスト2018でグランプリ受賞。

現場を変えるための起業

臨床研究をやっていると、患者さんを良くする様々なアイディアが出てきます。
それを論文で発表してきましたし、アメリカで賞を取ったりもしているのですが、現場はなかなか変わらないものです。

現場を変えるためにはプロダクトを作って、企業が儲かる仕組みを作らなければいけない。そうでなければそういったプロダクトを企業の人は販売して広めようとは思わないのです。
だから患者さんにいい医療を届けるためには、良いものを作り、更に儲かる仕組みを作って世の中に出さなければいけないのです。それで、産学提携に携わりました。

あとは若いドクターというのは大学で常勤のポジションをなかなか取れないんです。そして給料がとても低い。
だから理想は、研究を頑張っているドクターが儲かり報われる世界になり、そのドクターが自分の好きなことに集中できる環境にする。そしてドクターの臨床研究のアイディアを産学連携で起業に落とし込むことです。

その中で先程から好きなことをやったほうがいいと言っていますが、基本的に僕がサポートしたいと思うドクターは5年目以上の方が多いです。はり医者としての基礎がしっかりしていないと、患者さんに寄り添った良いアイディアというのは出てこない。

これはビジネスをどの年代ですると成功しやすいかという論文なんですが、3050歳くらいの起業が一番成功しやすいというデータがあります。シリコンバレーでも10年選手あたりが1番成功する確率が高いんです。

それは現場のニーズを一番把握しているからなんです。

だからパラレルキャリアを考えた時に医者としての基礎は強力で、いろいろな角度から物事を進める時にそれが役に立ちます。それは意識したほうがいいと思います。

最近、医者としてのキャリアを簡単に捨ててしまう人がいますが、それは勿体無いなと思います。
もちろん他のことをやりたければやればいいのですが、医師の能力というのは一番掛け算で機能します。普通の人からすれば、それだけで一万分の一くらいの能力です。それを捨てて他の掛け算で勝負するというのは勿体無い手法だと思います。
だから若手ドクターの起業一本というのはあまり推奨しないですね。

VRを臨床へ

例えばこれはVR技術ですが、これも現場の医師や理学療法士から出たアイディアをプロダクトに落とし込んだものです。

どんなアイディアかというと、リハビリテーションでは医師とか理学療法士が患者さんに指示を出すときに、明確に指示を伝えられないのです。例えば、ある地点まで手を伸ばしてください、と伝えても、患者さんはどこまで手を伸ばせば良いのかわからないのです。

医者が30cm前です、と言ってもうまくは伝わりません。医者は医者でフラストレーション持っていて、患者さんは患者さんでフラストレーションを持っています。

医療者と患者の双方向からのペインとニーズがある、そこが面白いと思います。

写真のような訓練をリーチングといいますが、リーチングしようとすると体幹の中心が崩れます。この人は小脳失調で左半身は動かせますが、右半身は失調がありコントロールできません。

VRを使い、同じ表示刺激を出して何回も練習させることによって、自転車の練習のようにできるのです。どう動かせば、どうコントロールできるのかを再学習させるのです。

これは止まっているエレベータを歩く事をイメージしてもらうといいと思います。脳が認識した情報と視覚の情報がミスマッチしてふらっとするのです。体が違和感を感じて瞬時には動けません。

小脳失調や脳梗塞の患者さんは、今までの感覚で体を動かしていたら思い通りに動かないのです。だから今の体の状態で、その動きができるように何回も同じ動作を練習することにより改善していくのでは、というコンセプトです。

この人は10年前に小脳出血で失調が生じ、もう治りませんと言われて、現状維持だけのためにリハビリに通っていました。
しかし二ヶ月間これで練習して、かなり歩行能力が上がりました。家事ができるようになり、昔は人にしがみつかないと歩けなかったのが、今は少し服に触れるくらいで平地を歩けるようになりました。

つまり、今まで全く治せなかった患者さんを治せるようになってきたんです。
今はこれをやるのが一番楽しくて、のめり込んでいます。

そしてアイディアを出してくれた人には会社に出資してもらい、きちんとお金をフィードバックして幸せになってもらいます。なぜ会社をたくさん作るかというと、会社ごとにアイディアを出している元が違うわけです。だからアイディアごとに会社を作らなければ、そのドクターにメリットを与えられないのです。

これは会社がどうやって出資してくれた人にメリットを与えているかの解説図になります。

まず一番左のアイディアの段階。ここで会社を設立します。例えばmediVRだと資本金100万円で設立しました。アイディアを出してくれたドクターにはそのうち10%の10万円だけ出資してもらいました。

そして試作品を作り、患者さんを治せるようになって経産省のコンテストで優勝して、会社の価値を高めてきました。

今では安くても10億円で会社を買いますと言ってくれる人がいます。

今会社の価値が10億円ということは、10万円が1億円になったのです。なので、そのドクターもとても喜んでくれています。僕の目標としては50ー100億くらいに会社の価値を高めてから売りたいです。そうすれば、そのお金で自分の好きな研究に打ち込めるようになるのです。

このような会社を沢山つくり、患者さんのことを本気で考えているドクターが報われる仕組みを作っていきたいと考えています。
しかし、会社は途中で倒産したらゼロに戻ってしまうんです。だから絵に描いた餅で終わらせないようにすることが大事です。

偉い人の言うことは真に受けない

それから、ビジネス業界も有名な人の言葉を真に受けなくても大丈夫という点では臨床研究の世界と一緒でした。

mediVRを作った当初、東大卒でマッキンゼー、ある大学の講義で一番面白いと言われている非常に有名な人に会いに行ったのですが、mediVRのプレゼンテーションをしたら、『お前は詐欺師だ』と言われました(笑)

そのアイディアは全然面白くもないし、既にあって斬新さもないから上手くいかないと散々に言われました。
他の人にも、『mediVRで特許を取りたいんです』と言ったら、これもくだらないと言われたんです。

だけど、今会社はうまくいっています。
特許も取れて、海外でも評価をもらっています。だから、偉い人の言うこと信じてはだめなんですね(笑)。

身につけておくべきことのまとめ

まとめですが、皆さんキャリアパスで考えて欲しいのは、掛け算のマインドで自分をブランディングしていきましょうということです。

目の前の課題に全力で取り組むことによって、点と点が線として繋がってくる。そしてこの全力で取り組んだことを達成していくことで、自信がついてくる。

そして大きな権威や権力から何か言われても、『いや、自分はこうなんです』と言えるようになりましょう。

それから希少性という点で、医師免許は最強です。だからこれを手放すというのはもったいないです。

そして今日僕が話した内容を皆さんに経験して欲しいです。知識は経験を伴わないと、能力として全く身につかないのです。

研修医が知識があっても現場に行って全く何もできないのは、経験がないからです。だから本に書いてあることも、自分には当てはまらないかもしれないので、とにかくいろいろなバリエーションを経験するというのは大事だと思います。

それから先程言ったように、情報収集能力を身につけてください。
いまGoogle翻訳などもありますが、英語で読めるというのは情報にアプローチする上で大事です。
やはり英語の情報はしっかりしています。日本語にする上で、タイムラグが生まれて不正確になっていくので英語で情報を得られるというのは今はまだスキルとして重要です。
そしていろいろな情報がある中で、どれが信頼の置ける情報なのか、どれが信頼できない情報なのかという取捨選択も一つの情報収集能力のうちです。

さらに経験をするために、今度は情報を発信してみることです。知識をアウトプットする事はとても大事です。

そして責任ですね、最後までやり遂げる。或いはやらないときはやらない、とはっきり言うことはとても大切です。

感情に訴える

一般の人は感情とロジックが8:2です。皆さんは医学部なのでかなりロジカルに寄っています。
この感情の部分がいろいろなプロジェクトをやる上ですごく大事になってきます。

例えばタバコが体に悪いとは全員知っていますが、それでもやめられませんよね。それは感情で『まあいいや』としているからです。
今海外ではタバコの規制に続いてお酒の規制が進んでいます。お酒も体に悪いとわかっていますが飲みますよね。やめろと言われても、やめられません。これがタバコが体に悪いと感じながらも禁煙できない人が感じているパターンなのです。

 

それをきちんと理解してあげた上で、その人の人生バックグラウンドがどういうものか意識して対応すると全然違います。

そのために簡単な方法として、情報収集能力、能動的に情報を取りに行くことは誰でも身につけておくべき能力だと思います。
SNSを使わない人もたまにいますが、それは薬の副作用の話と同じで、メリットを最大化させデメリットを最小化して使うしかありません。
SNSも上手く使うことで、非常に質の高い情報にアプローチすることができるのです。

人との関係を構築する時も、断られたらどうしよう、ではなく、断られてあたり前、ネットワークができたらラッキーくらいのマインドでどんどんプラス思考で繋がっていけばいいと思います。

教科書の宣伝を少々

最後は教科書の宣伝です。
人生の生き方の意味と臨床研究について伝えたいと思って書きました。
よければぜひ買ってください(笑)。

この教科書は先程の『感情が8割理論』を用いて、感情を揺さぶるワードを沢山盛り込んでいて、頑張っている人が読むと応援してもらえていると感じる表現になっています。
一方で頑張っていない人は批判されていると感じるような書き方をしています。
これは実験的にそうしたんですね。

すると予想通り、アマゾンのレビューでも、普通という評価がなく、批判か絶賛か、のどちらかでした。
こういった社会実験もいろいろやっています(笑)。

やりたいことを全力で

最後のメッセージですが、やりたいことをとにかく全力でやって、他人の評価軸ではなく自分の評価軸をしっかり持ちましょう。

高級だけど嫌いな食べ物と、安いけれど自分の好きな食べ物だったら絶対自分の好きな食べ物を選ぶと思います。それと同じで、自分なりの評価軸をもつことです。

自分の評価軸を持って自分のやりたいことをしっかりやっていきたいですよね。
それから我慢はしなくていいけれども努力は必要です。
ということで僕の話は終わりにしたいと思います。ありがとうございました。

〈 文 = 江崎 聖桜 〉

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