時代が変われば常識も文化も変わります。様々な領域がいま歴史的転換点を迎えており、医療もその例に漏れません。
2018年6月には、2030年への医療の展望を30名のイノベーター達により対談形式で描いていく、超新書「医療4.0」が衝撃的に出版され、大きな話題を呼んでいます。
その「医療4.0」× 医師ラボのオフラインイベントでも、凄まじいまでの自由天才ぶりを披露し、参加者を骨抜きにした、加藤浩晃先生。今回はその加藤先生の主催するオンラインサロン「ヘルスケアビジネス研究会」の、これまた超絶面白いイベントに行ってきたので、ご紹介します。
2018.7.13「ヘルスケアビジネス研究会」サロンイベント
アジアから見るヘルスケアビジネスの現状
speaker:「アジヘル考察日記(http://healthcareit.jp/)」、News Picksの医療・ヘルスケア部門のオススメピッカーとして有名な田中大地さん

今回田中さんに、シンガポールでWeb Platform部門の長として2年半働かれて得た知見をご自身の考えとともに共有していただきました!
アジアでは今なにが起こっているのか?
アジアでは今なにが面白いのか?
面白いことは間違いないこのテーマ。しかし、講演の時間は1時間。アジアのヘルスケアマーケットを理解するのは1時間では困難であり、田中さんは我々イベント参加者の本日のゴールを設定。それは ずばり、
<アジアのヘルスケア領域で事業作りをするにあたっての大事な考え方を理解する!!>
です!!アジェンダ:
- 自己紹介
- M社の紹介
- 前提:ヘルスケアビジネスで大事なこと
- アジアの医療・ヘルスケアマーケットについて
- アジアの市場構造を捉えた事例をいくつか
- Q&A
さっそく
1. 自己紹介
田中さんはリクルート営業でまず名刺を破られるなどメンタル武者修行!
→リクルート内のネットビジネス推進室で事業開発(当時は紙の時代!)
→もともと年間300本観る映画オタクでありいつか映画やりたい!という気持ちが大きくなり映画ITベンチャーに行くも資金ショートの危機(含電通からの2億円)自分で採用した人を2ヶ月後に辞めてもらったり、苦しい時代。
→やっぱり衰退産業はきついよ!ではのびゆく市場は?医療、介護、ヘルスケアだ!!!
→SMS社で認知症領域で事業立ち上げ
→三井物産と共同買収したシンガポールのM社に2年半出向。Web部門Head
→現在:医療AIスタートアップ
このように田中さんは手を変え品を変え10年ずっと事業作りをしているプロ。
そのプロの仕事のひとつとして、「認知症ねっと」というWebメディアの紹介。これは認知症が注目されるちょっと前にメディアを立ち上げたため、時流に乗って、大成功を収めたそうです!
大切なことは、「ちょっと流行る前に立ち上げること」。流行するあまりにも前、例えば5年もあると、金銭的な意味も含めて体力がなくなっていくんですね。売り上げを最大化できる最適なタイミングは、潮目が変わる半年〜1年前の参入だそうです!
(話は逸れますが大事なこと。
遠隔診療は将来的には絶対いくのはわかるが、いつくるのかがわからないのが現状。とりあえず、もう2年はきついということがわかっているので、現在は体力温存がベストです。その証拠に鬼企業M3やSMSはまだ参入していません。
けど、ただ待っているだけじゃない。いいタイミングで参入するための準備は必要です。プラットフォームだけは作っておいて、そのまま応用できるかたちにしておく。ただし全力ではない。体力温存です。)
そして、認知症ねっとを通じて、田中さんが一番辛かったことは、「家族の話を聞くこと」でした。突然、親に「あなたは誰ですか?」と言われたりすることも、認知症では珍しくありません。そんな話を聞いて、医療には課題解決がある!と心から感じ、ヘルスケアに一生を懸けようと思ったそうです。
2. M社の紹介
M社は、2015年にSMSと三井物産が300億円で共同で買収した、アジアの医療者では知らない人はいないくらいのグループ。アジア13カ国合計、医師50万人、医療従事者250万人の会員基盤を持っている!
事業内容:
1)製薬会社のかわりに医療者への宣伝などの支援
2)医薬品データベース 病院のカルテに組み込まれており(オーストラリアやニュージーランドの病院クリニック薬局すべてにおいて50%以上のシェア!)、M社のデータベースにのってないと医薬品が処方されない、という凄まじいビジネス。薬品相互作用あるやつもわかるようになっていたりする。また、アジアは国単位でしか医薬品の売り上げがわからなかったりする→電子カルテ情報からマーケティングに使える!
3)電子カルテ アジアはまだ紙のカルテが多い。それらを電子カルテに!
まあ、つまり…とにかく、ヘルスケア界隈のあらゆるビジネスをやっている凄まじいグループがM社!!
そして、具体的な、M社が応えているアジアのニーズのひとつとして驚いたのが、
医薬分離がされていないマレーシアにおける、「医薬品在庫管理をしたい」というニーズ。日本ではありえませんが、医者やナースが薬を持ってっちゃうことが普通に起きるため、数を管理したいというニーズがある!
これは、現地に行かないと分からないニーズ!
現場からでてくるニーズ!
ちなみにイベント後の懇親会では、「インドでは偽造品の薬が横行しているので、本物かどうかをスキャンするアプリが今人気」とかも聞きました。すごい。
ここまでで十分面白いですが、これらを布石として、ようやくここでヘルスケアビジネスの前提の話へ!
3. 前提:ヘルスケアビジネスで大事なこと
「田中さんが考える、ヘルスケア領域の事業作りで大事なこと」
それは、
「何よりも構造理解」
だそうです。具体的には、

この4つ!!
ひとつ例にとってみます。
大手製薬・卸・医療機器メーカーの課題と経済原理 の構造
日本は社会保険方式で、資本集約が進みにくく突出した大手企業は育ちにくい。診療報酬によってコントロールされているのです。
調剤薬局を例にとってもシェア2.5%で1位になれるのは、異常!上位20位までの企業を足しても10%とか20%しかない!例えば車でいえば、トヨタとホンダだけで40%を超えます(2015年)。それだけ突出企業が育ちにくい。
例外の1つは製薬会社。これは1つの薬をつくるのがあまりにも大変だから体力のある企業がいないと困るからです。
そして…みなさんは、ビジネスをやるとき、10万人から1000円を投資してもらうのと、2社から5000万円投資してもらうのと、どちらが大変だと思いますか?ビジネスをしている方には自明かもしれませんが実はこれは2社から5000万円とるほうが圧倒的に簡単なのです。お金は、沢山もっているところから貰う!この経済原理は抑えておくといいかもしれません。
このように、4つそれぞれの構造を理解していくことが重要とのこと。
さらに、参考までに、とM3の唱えている、この4つの構造を理解するためのフレームワークも紹介。
- 改善目標
- 理念・思想
- 技術
- 場所
- 支払い・金の流れ
- 人・プレーヤー
- 規則・法律

さらにさらに、構造を捉える際に重要なポイントは、
「1つのPortionだけを見るのではなく、複合的視点で構造を捉え、常に市場性を確認する」
- 現場だけ、技術だけ…にならないこと
- 本当に多数の人がお金を払ってまで解決したい課題?
この視点を常に持っておくことが大事、と。
確かに……現場では、このサービスあったらすごいいいじゃん!って思っても、それビジネスとして成立するの?っていう鋭い指摘を受けることもありますよね。多分現場、医療者は、使命感、どうにかしたい、助けたい、という想いが基本強くて、お金はそれどれくらいかかるの?どうやって回すの?っていうビジネス的な視点が弱いのは一般的にあると思うんですよね…だから現場が大事なのは無論なのですが、実現させる夢にするには俯瞰的に見ないとねということ。
そして、この視点をふまえた上でのフレームワーク具体例:
例:SMS創業時の話
- 15年前、高齢化に伴い医療人材・介護人材が将来的に圧倒的に不足することを見抜く<人口構造・市場性・制度理解>
- 一方で、現場の理解が全くなかったので、2ヶ月間介護施設に住み込みで働く<現場理解>
- 現場の気持ちがわかった上で、業界で初めてケアマネ、ナースの人材紹介事業を立ち上げ。合わせて従事者向けコミュニティを量産し、強く投資はせず。
- その後、いわゆる7対1の制度快晴で人材需要が拡大<支払い制度・医療制度>
→結果、設立15年で時価総額2,000億円(2018年)の企業に!ヘルスケア×IT領域では、エムスリーに次いで国内2位の規模に!!
人口構造、市場性、制度理解を読んだ上で、現場を理解。
そこから事業をいいタイミング(潮目、時流を読む)で立ち上げ、読み通り制度がついてきて、結果大成長!見事な例です。
4. アジアの医療・ヘルスケアマーケットについて
じゃあ、「アジアのヘルスケアマーケット」はどうよ?と
実は現在アジアは人口ボーナス、高齢化、経済成長、医療の整備という4つのwaveが同時に来ており、超成長せざるをえない市場!!
最近の5年間(2008-2013)でなんとアジアは日本の13.5倍の成長率!
その結果、もともとそれほどなかった差は大きく開き、2013年の絶対値でいえば、日本は医療費39兆円、アジアは医療費112兆円。

ではなぜこれほどまでに成長率が違うのか?
それは勿論先ほどの4つの波(人口ボーナス、高齢化、経済成長、医療の整備)が影響しているわけだが、これはtriggerであって、基本構造ではない。
基本構造が違えば、同じtriggerでも市場の反応は変わってくる。
つまり、しつこいまでに基本に立ち返ると、日本とアジアの構造を理解する必要がでてくる。
そう、「何よりも構造理解」。
「構造が違うから、ビジネスが違う」!

上のスライドでは、日本とシンガポールの構造の違いについて、例をとってみています。
日本は社会保険形式であり、国民が払う医療費は安いので、予防医療の需要がアジアに比べて少ない。病気になったら安いお金で治療できますからね。対してシンガポールは医療貯蓄講座方式。慢性疾患は基本自費負担なので、自助努力せざるをえない。
実際にシンガポールにはフィットネスジムがマンションに常設されており、しっかり利用されているらしいです。専属インストラクター呼んだり。すごい。

5. アジアの市場構造を捉えた事例をいくつか
そしてここから具体例。
<eDetailing>
実は田中さんは、M社買収・アジアヘルスケア参入の中で、eDetailing(製薬会社営業のネット化)の思想についてシンガポールの製薬企業にとにかく刺さらないという体験をしています。前提として、eDetailingは日本では大成功を収めており、アジアでも流行ることを見込んで、導入することを試みたわけです。
でも、刺さらない。全然刺さらない。
何故?はい、そうです。「何よりも構造理解」。
実は、アジアの国々は、それぞれが面積として小さい。医者の数も少なく、専門医の少ない領域だと、50人程度。これは、MRが3人いれば回れる人数。面積も狭いから、タクシーも端から端まで1時間くらいだったり、営業所は本社のみでいいから、物理的コストはかからない。ネットを開始運営するほうが、よほど手間で非効率(と考えられてしまう)のです。
また、GP(総合診療医・かかりつけ医)制度をとっているかどうかも重要。シンガポールはGPが6割で、専門家は40%。泌尿器科医はなんと50人くらいしかいない。医師全体でも1万人。かつ、製薬会社は専門特化向けの医薬品が多くなってきていて、専門医に売りたい。つまり、GPの割合が多い=専門医が少ないと、MRが営業すべき対象人数は少なくなるのです。
このように構造を理解するとつまり、日本で流行っているいわゆるeDetailingをアジアに持ち込むためには、そのままではなく、かなり工夫が必要だということが分かります。この理解から、M社はeDetailingについて、「よりMRのサポートをする」という形に変えて、事業展開していきました。
eDetailingについて、成立に関わる重要な要素は、国のサイズ、GP、アクセシビリティ(インドネシアはタクシーの渋滞がすごく、歩いて30分のところがタクシーだと2時間。これだとインターネットを活用したマーケティングが成立しやすい)、言語(ローカルなほうがコンテンツにおちる費用は高くなる)などなど。
これらの要素について、田中さんは、eDetailingが成立する国(日本、中国)と、そうでない国に分けて分析しました。
結果、下の神比較表が完成。

田中さんの分析結果によると、タイならeDetailingありえるかもらしいです。参入しようと思っている方への朗報でした。
<クロスボーダー>
そして田中さんが色々やっていくなかでアジアのヘルスケア領域において気づいたこと。アジアでは、国と国の距離が近く言語のハードルもないので、クロスボーダーにいくべし!つまり近隣諸国とどう繋がるかが大事。
例えばインドネシアの患者と他国(マレーシア、シンガポールなど)の医師をつなぐビジネスとか。インドネシアでは、医師は尊敬されない職業のひとつ。なぜなら医師が賄賂で処方決定をするのがまかり通っているから。このためインドネシア富裕層は自国の医師を受診したがらず、シンガポールなどに受診する。
日本と違って医療費が社会保険制度ではなく、遠隔診療(自国も、他国も)にも規制がない(医師免許あればokくらい)ので、日本よりも患者ニーズで遠隔診療が多数成立する素地があります。
ここで、クロスボーダー遠隔診療が成立する!
自由!アジア、自由!
もしかして、遠隔診療やるならアジアの方が早い?そんな視点もあります。
そして、アジアで起業するひとは、ほとんどがアメリカなどの外国人。シンガポールですら未だに厚労省的な組織で働くのがステータスとなっており、起業文化がまだ育っていないようです。
じゃあアジアで実際に起業するなら、「現地の有力者や財閥とネットワークをつくる」がかたい。やはり、ヘルスケアビジネスで新たなことをやりたければ、国の巻き込みなども大切なので、日本人だけでは難易度は高い、ということです。
さて……濃密すぎるセミナー、次の例は、
<アジアのヘルスケアは「大同団結」「資本集約」がキーワード:現場とTechの融合>
日本の病院は医療法人なので、オフィシャルには買っちゃいけない存在。対してアジアは保険会社が病院を買いまくりです。例えば中国には、インシュアラー(保険業者)を起点に、病院・クリニック網、電子カルテ・患者管理APP・遠隔診療サービスなど、サービスからテックまでを全体網羅する、時価総額20兆円越えの巨大グループ「中国平安」があります。
これが実は、恐ろしい構造。

まず、保険加入者が、自グループの病院・クリニックを受診させるような設定に。その医療機関では、自社の遠隔APPを使用させる。医療機関とテック企業が連携することで、使われれば使われるほどAPPは洗練され進化していくという仕組みも容易に形成。調剤薬局や医薬品会社は言わずもがな。
この鬼のような仕組みで、グループは無限に成長するわけです。
このビジネスモデルは恐ろしいほどすごい。
しかし日本では社会保険制度という厳しい縛りがあるため、このビジネスモデルは応用しづらい。では、日本のヘルスケアビジネスでいいなと思われているのは?
日本では大同団結モデルは成立するか?
答え:やっぱりすごいね、エムスリー
2018年2月にソフィアメディ株式会社という訪問看護事業が、エムスリーに株式譲渡により統合されました。エムスリーは大同団結を意識して動いているわけです。
今挙げられたいくつかの事例の他にも、構造をつかんだ事業例が沢山紹介されたのですが、若干力尽きてきたため、会場限定として割愛します。どれも面白かったことは間違いない!
アジアのヘルスケアマーケットで事業を作るために大事なことは、「何よりも構造理解」
そのために、今日からできること3つ!
- まずは現地に足を運ぶこと
- 調査やマーケにはM社もぜひご活用ください!(田中さんに)お気軽にご連絡を!(会場特典。加藤先生のヘルスケアビジネス研究会に参加しよう!)
- 一冊読む本なら、「アジアの医療保障制度」がオススメです。
そんな締めくくりでした。いやー、すごい熱量でした。
現場での渇望ニーズが、構造理解と時流の読みによって、どんどん有効に応えられていけばいいなあと思いました。知識としてまずためになりましたし、個人的には、洗練された熱い起業家の魂みたいなものに触れられたことも、いい勉強になりました。
この後の懇親会もまた、すごいことになったのですが……
体験したい方は、是非加藤先生のオンラインサロンへ!!→https://lounge.dmm.com/detail/504/
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